恋口の切りかた
話によると──
宗助の無惨な姿を見て思いつめた様子だった霊子は、
一週間ほど前に「兄さまの仇をとる」などと不可能かつ意味不明なことを口走って海野家に侵入したらしく、
それきり鬼之介の長屋に戻ってきていないのだという。
どうやら中で捕まっているのではないかとのことだった。
「霊子殿は、無償でボクの身の回りの世話をしてくれた女性だ!
聞けば、この屋敷の中は盗賊の巣窟となっているというではないか!
侍としてこの恩に報いるため、何としても救出する!」
鬼之介は槍を持っていないほうの手を拳にして、胸の前でグッと握りしめてそう言った。
「いや、まあ、お前が助けに来たらあの女は喜ぶと思うけどよ……」
青文と同じく、俺も鬼之介は巻き込みたくなかったのだが──
何を言っても帰りそうにない鎧武者を眺めて、俺は溜息を吐いた。
「それで、ちょっとまずいことになってるんだよ」
長屋門を見上げてそう言ったのは与一だった。
「冬馬様が、早まってお一人で中に入っちまった」
「なに──?」
俺は驚いて、
「うむ。ボクも止めようとしたのだが無理だった」
と鬼之介も言った。
打ち合わせで、冬馬は物陰から海野家の屋敷のほうを見張ることになっていた。
しかし鬼之介たちが言うには、
ついさっき夜叉之助たちがここに戻って来るのを目にしたとたん、
一緒にいた鬼之介の制止を振り払って飛び出して行ってしまい、門の前で夜叉之助たちと何事か言葉を交わした後、そのまま奴らと共に門の中へと消えてしまったのだそうだ。
宗助の無惨な姿を見て思いつめた様子だった霊子は、
一週間ほど前に「兄さまの仇をとる」などと不可能かつ意味不明なことを口走って海野家に侵入したらしく、
それきり鬼之介の長屋に戻ってきていないのだという。
どうやら中で捕まっているのではないかとのことだった。
「霊子殿は、無償でボクの身の回りの世話をしてくれた女性だ!
聞けば、この屋敷の中は盗賊の巣窟となっているというではないか!
侍としてこの恩に報いるため、何としても救出する!」
鬼之介は槍を持っていないほうの手を拳にして、胸の前でグッと握りしめてそう言った。
「いや、まあ、お前が助けに来たらあの女は喜ぶと思うけどよ……」
青文と同じく、俺も鬼之介は巻き込みたくなかったのだが──
何を言っても帰りそうにない鎧武者を眺めて、俺は溜息を吐いた。
「それで、ちょっとまずいことになってるんだよ」
長屋門を見上げてそう言ったのは与一だった。
「冬馬様が、早まってお一人で中に入っちまった」
「なに──?」
俺は驚いて、
「うむ。ボクも止めようとしたのだが無理だった」
と鬼之介も言った。
打ち合わせで、冬馬は物陰から海野家の屋敷のほうを見張ることになっていた。
しかし鬼之介たちが言うには、
ついさっき夜叉之助たちがここに戻って来るのを目にしたとたん、
一緒にいた鬼之介の制止を振り払って飛び出して行ってしまい、門の前で夜叉之助たちと何事か言葉を交わした後、そのまま奴らと共に門の中へと消えてしまったのだそうだ。