恋口の切りかた
彼の気持ちはわからなくはなかったが……


「くそ……! 何やってんだよ、冬馬のやつ……!」


冬馬は夜叉之助の実の弟だ。

夜叉之助が冬馬をまだ何かに利用しようとしているのならば、すぐに殺されたりはしていないはず……。

俺は己に必死に言い聞かせて、あせる心を落ち着かせようとした。


「とにかく、中に入るぞ」

俺は固く閉ざされた門扉をにらんで、

「誰かが門を乗り越えて、中からかんぬきを外すしかねえな」

こういう時、宗助がいればと思った。

しかし宗助が負った傷はひどく、一月以上が経過した今も回復には至っていないと聞かされていた。

誰が行くかと考えていると、

「ふふふ……その必要はない」

そんなことを言って歩み出たのは鬼之介だった。


「どうやらこいつの出番だな」


言いつつ、鬼之介はマントの下から何やら取り出して──


「何だそりゃ!? 馬上筒か?」


俺はその奇妙な形状の物体を見て眉を寄せた。


馬上筒というのは種子島を小さくしたような武器で、戦国の世の末期に考案されたものだ。

その名の通り馬上の武士が用いた、片手で扱える火縄銃である。


だが鬼之介が手にしているものは、馬上筒とは異なり六つの銃身を束ねたような形状をしていた。
< 2,096 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop