恋口の切りかた
中へと入った瞬間、

「入ってきやがったぞ!」

「やっちまえ!」

などという、町のヤクザ連中からもしばしば聞くお約束のセリフと一緒に、刀を手にした人相の悪い男たちが俺たちを囲んだ。


どこからどう見ても、どいつも家老家の家来には見えない悪党面だった。


「あらら。本気で海野家は盗人宿にされちゃってたみてーだな」

隼人が腰の小太刀に手をかけて鼻を鳴らし、

「どおりで俺の耳にも一味の居所が入ってこなかったワケだぜ」

散切り頭を振って、与一が長ドスを引き抜いて──


「この有様では……海野喜左衛門様はどうなっているのだ……!?」


戦慄した様子で、清十郎を養子に迎えた養父の名前を口にしたのは帯刀だった。


そう言えば……


俺と隼人も顔を見合わせる。

海野家の前当主のことについては、頭からスッポリ抜け落ちていた。


「確かニセ清十郎に家督をゆずって、今も病床についてるハズじゃあ──」

「ってこの状況で無事に生きてんのかよ!?」

隼人の言葉に俺はそう言って、帯刀が眉間にしわを作った。

「もしもご無事でいるのならば──お救いせねば……!」

そりゃそうだ。

「じゃあ──そっちは帯刀、あんたに頼んでいいか?」

俺の言葉に帯刀がうなずき、腰の一刀を抜いた。


俺は、ぐるりと周囲の賊を見回して、


「盗賊改め方、結城円士郎だ!」


名乗りを上げ、二刀を抜き放って、
右手に長刀を、左手に小太刀をかまえた。
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