恋口の切りかた

二、白浪六人斬りの娘


 【剣】

鈍色の空から、低いうなりが降ってきた。

雨足が強まり、霧のようだった雨は
ざあ……と音を立てて、池の水面にいくつも波紋を作る。


「ねえ、おつるぎ様は久礼奈為という花を知っている?」


凍りついたまま少女を見つめる私に、おひさは薄ら笑いを作った顔で、いつか清十郎からも聞いた花の名前を口にした。


「くれない。紅花の別名よ。
一味を率いていたおとっつぁんは、『紅傘』の名にちなんで、この花の最初の一字からあたしに『久』という名をつけた」


目の前が真っ暗になっていくようだった。


「わた……私が、斬った……盗賊の娘……?」


おひさちゃんが……?


「そうよ、紅傘の定衛門には娘がいたの。
悪党にも家族がいるなんて、考えてもみなかったかしら?」


体を震えが這い上った。


「世間では悪人でも、母親のいないあたしにとって、優しいおとっつぁんはたった一人の家族だった」


そう語るおひさの言葉を聞きながら、思い出した。

彼女は家族を失って結城家の奉公人として拾われた。

家族を失った──


それでは、彼女が家族を失ったのは……

彼女から家族を奪ったのは……


「あんたが斬り殺したのよ、白浪六人斬りの娘!」


烈火のような怒声を叩きつけられて、びくっと肩が震えた。


「七年前の雪の日、あの村で──あんたがおとっつぁんを殺した!」
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