恋口の切りかた
冷え切った唇をぎゅっとかみしめて、私は震える声をしぼり出した。


「だって……だったら、どうしたら良かったの……?」


人殺しなんて……

私だって、したくてしたんじゃない。


「おひさちゃんのお父さんが……村を襲ったから……だから私は……」

「殺されたら良かったのよっ!」


おひさは恐ろしい声を張り上げた。


「あんたなんか──おとっつぁんたちに殺されて死ねば良かったのよ!

そうすれば、あたしは一人ぼっちにならなくてすんだのに!」


「そんな……」


私は震えながらうつむいた。



殺されていたら……良かったのだろうか。

そうすれば──



何一つ色あせぬまま、
暗い雪の晩の、橙色の炎とどす黒い血の記憶が浮上した。


必死だった。


生まれて初めてぎらぎらした刀を目にして、
その刃の輝きを突きつけられて、

無我夢中で体を動かした。


けれど、あのとき──

おひさの言うように、抵抗せずに大人しく殺されていれば良かったのだろうか。


そうすればきっと、おひさは父親を失わなかったし、

私も──


家族に捨てられるような絶望を味わわなくてすんだのかな……。

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