恋口の切りかた
「こいつは……」

「無想流槍術の宮川家に代々伝わる名槍『赤花飛燕楼』──」


見事な作りの槍を眺めて声を上げる青文をさえぎり、屋敷の中からそんな言葉が届いた。

声に続いて、先刻吹き飛んだ障子の奥から姿を現したのは十三、四くらいの子供だった。


「──だよね、お兄さん」

子供がニッコリと微笑んで、鬼之介の青白い額に青筋が浮いた。

「このガキ……!」

「雨かァ、火薬が湿気るなあ。中でやろうよ」

子供は屋根の下に立ったまま空を見上げて、鬼之介にそんなことを言って、

「ボクは引き続きこのガキの相手をするッ! 貴様はその槍を使え!」

鬼之介は青文に向かってわめいて、ずかずかと大股で屋敷の中へと引き返した。

「借りていいのかい?」

その背中に向かって、青文が可笑しそうに尋ねて、

「好きにしろ! ただし、うちの蔵に忍び込んで黙って持ち出したから──もしも壊したら弁償してもらうぞッ」

鬼之介はそんな返事を残して、子供と睨み合いながら屋敷の奥へと消えてしまって──鉄砲を撃ち合うような音と、何かの爆発するような音が聞こえてきた。


代々伝わる名槍を黙って持ち出したの!?

いいのかな?


空からの霹靂のように突然降ってきて、槍だけ渡して立ち去って行った鬼之介を、私はぽかーんとしたまま見送って、


「じゃあ遠慮なく使わせてもらうかな」

感触を確かめるようにびゅっ、と音を立てて振り、青文が「シャッカヒエンロウ」という名の槍を構えた。
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