恋口の切りかた
「宗助、おつるぎ様を頼む」

青文は忍の男を振り返ってそう言って、


私ははっとなる。


「おひさちゃんは──?」


少し離れた場所に倒れていたはずの、女盗賊の姿が消えていた。


宗助が弾かれたように私の視線の先を見て、能面のような無表情を強ばらせた。

「しまった──そちらに気を取られているうちに……」

どこに行ってしまったのだろう。

雨の庭におひさの姿は見当たらない。

「本当に調子が悪そうだな」

彼らしくない失態を犯した宗助に、青文が皮肉っぽい言葉をかける。

「宗助のせいじゃないよ、私たちの誰も気がつかなかったんだもん」

私は慌ててそう言ったけれど、宗助は奥歯をぎりっと鳴らして噛みしめて、

「申し訳ありませんがご一緒できません。俺は彼女を追います」

そう私に言い残すと、忍の男はすぐに雨の降りしきる庭をどこかへ行ってしまった。


やれやれ、と青文が肩をすくめて、

「何度も助けてもらって……ありがとうございます」

私は彼に頭を下げた。

「ここはあなたにお任せします」

早く、
早く、エンのところに行かなくちゃ──


青文が微笑んで頷き、


十文字槍がうなる。

回転させ、勢いをつけた一撃を青文が女の人へと繰り出して、

女の人の構える薙刀が同様に風を切り、迎え撃つ。


朱塗りの柄の槍と、
対照的に白い柄の薙刀とが交錯し、


長柄の獲物の鋼同士がぶつかり合い、空を走る稲妻のように火花が散った。



それを視界の端に捉えながら、

私はその場を後にして、再び屋敷の敷地の奥へと走り出した。
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