恋口の切りかた
三、兄と弟
【円】
薄暗い屋敷の中を、盗賊と斬り結びながら夜叉之助と冬馬を探して走り回り──
屋敷の奥を目指して、何度目かに襖を蹴破った時だった。
部屋に飛び込んだ瞬間、横手に潜んでいた者が右から首を狙って刀を振り下ろしてきた。
明らかに剣術の心得のある者の動きだ。
また、行逢神の平八というあの大男の手下かよ!
俺は振り向き様に長刀を合わせて相手の獲物を跳ね上げ、左手の小太刀で斬りつけようとして──
動きを止めた。
そいつは、俺と同じくらいの若い男だった。
これまで屋敷の敷地内で出会った賊はどいつも侍の格好をしていて、それは目の前にいる相手も同じなのだが──
「お前は、賊じゃねえな」
目を見開いて硬直した若い侍の顔には見覚えがあった。
幼い頃、初めて刀丸と出会った時に俺がいじめていて、「鬼の漣太郎が負けた」と言いふらしやがった──あの二人組の、憎たらしい顔の面影がある。
「武家の人間だな? もともとの海野家の家来か?」
ええと、名前は……
……忘れた。
アレだ、刀丸曰く「弱いの」其の一。