恋口の切りかた
こいつの中で幼い頃の俺の印象は最悪だろうし、到底信じてはもらえないだろうと思いながら駄目で元々で頼んだだけだったので、其の一の反応は意外だった。


弱いの其の一は眉間に皺を寄せて考えこむようにしながら、

「清十郎様の家来衆が盗賊だという話には……思い当たる節がいくつかあります」

と言った。


さすがに、そりゃそうか。

あれだけ人相の悪い連中が大勢転がり込んで来たのなら、多少は不審を覚える者もいて当然だろう。


「それに──私も侍です。
本気で死の覚悟を決めた侍の言葉くらいはわかる」


そう言って、弱いの其の一は俺に夜叉之助のいる部屋の場所を教えてくれて、


「私のような身分の者に頭を下げた貴方の頼みは、確かに承りました。

貴方の幼友達として、海野家の家来のことは私にお任せください。
円士郎様はどうぞご存分に」


丁寧に礼を取った侍を見下ろして、俺はあんぐりと口を開けた。


「誰が、誰の幼友達だ?」


思わず耳を疑って聞き返した俺に、今度は弱いの其の一がぽかんとなった。


「は?」

「いやいや、だってよ──自分で言うのもなんだが、俺は、てめえらには酷ェ真似ばかりしてた嫌なガキだっただろ。

刀丸──留玖以外で、俺を幼友達なんて呼んでくれる奴はいるわけねえと思ってたからよ」


俺が言うと、弱いの其の一は困ったように笑った。


「寂しいことを仰いますな。

確かに貴方にはいつも酷い目に遭わされておりましたが──

それでも、貴方に対抗しようとして剣術に打ち込んだり、
他の者と協力して立ち向かおうとしたり、
何とか逃れる手を考えたり……

本来ならば一生言葉を交わすこともない御三家嫡男の身分の御方とそうやって遊んでいたなど、今では良き思い出です。

あの頃の貴方やおつるぎ様を知る我々は皆、貴方のことを幼友達だと思っていますよ」
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