恋口の切りかた
俺は衝撃を受けて、




不覚にも目頭が熱くなるのを感じた。




あの頃の俺を知る者に、まさかそのように思われているとは想像もしていなかったし、

幼い頃の友達は留玖一人だと思っていた。


しかし、

俺が勝手にそう思っていただけで、こいつのように俺のことを幼友達と思っている者がいるというのか?


だとすれば──


友というものは、

いくら相手から友人だと思われていても、自分自身がそいつのことを友だと思わなければ存在しない。


俺は自ら孤独を作ってきたのだろうかと初めて思った。


「弱いの其の一なんつって悪かったな」

「はい?」

キョトンとする侍に向かって、俺は苦笑いした。

「悪ィ。お前、名前なんだったっけ? あの世まで覚えて行くよ」


侍は目を丸くしながら、彼の名を伝えてきて──


「ここで、死ぬ前にお前に会えて良かったぜ」


俺はその名前と顔とを頭の中に刻みつけて、この偶然の再会に感謝した。


こいつと出会わずに死んでいたら、俺の幼友達は最期まで留玖一人だった。


「御武運を」

そう言ってくれた侍と別れて、屋敷の中を教えられたとおりに進み──




そして辿り着いた部屋の襖を開け放ち、中へと踏み込んだ俺が見たのは、

刀の柄に手を掛けた夜叉之助と、抜き放った刀を構えて睨み合う冬馬の姿だった。
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