恋口の切りかた
「冬馬」

円士郎が気遣うような声で言って、

私は冬馬を見た。


冬馬は雨に肩を濡らしながら、じっと立って、

動かなくなった実の兄を、
瞬きもせず、
睨むように見ていた。


やがて、ゆっくりと歩み寄って、
その傍らにしゃがみ込んで、
冬馬は開いたままの瞼を閉じさせた。


「これで良かったのです」


血の繋がった、たった一人の肉親を失った彼は、立ち上がって円士郎を真っ直ぐ見つめた。


「私の兄は、あなただけです」


「おう」と、円士郎が頷いた。


冬馬はそれから私を見て、

「私には、優しい姉上もおります」

と言って微笑んだ。


私はまた涙がこみ上げそうになるのを我慢しながら、

「うん」

と答えて、首を大きく縦に振った。
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