恋口の切りかた
四、円士郎 vs 留玖
【剣】
円士郎は、自分の着物の袖を破いて、黙ったまま私の腕に巻いてくれて、
それから自らの肩口の傷にも止血を施した。
「冬馬。お前はその傷、大丈夫なのか?」
円士郎は冬馬に尋ねて、
「どうやら夜叉之助の言うとおり、深くはないようです」と冬馬が言った。
「でも酷い出血だった。動かねえほうがいい」
雨に濡れている冬馬に、円士郎はそう言って部屋に戻るように促して、
冬馬がふらつく足で屋敷の中に引き返して、
「留玖様」
円士郎が私に向き直って、私はぎくりとした。
私を見つめる眼差しの奥に、固い決意が宿っているのがハッキリとわかった。
「留玖様は、虹庵先生をここに呼んで来てはいただけませんか」
穏やかな笑みを作ってそう言って、
「無礼を承知で、冬馬のためにお頼みします」
円士郎は深々と頭を下げた。
どくどくと耳元で嫌な鼓動がして、
あの雪の大晦日の晩に、硬く閉じられた家の戸を前にした時のような──真っ黒な不安が胸の中を塗りつぶしてゆく。