恋口の切りかた
「冬馬はあの通り酷い怪我で、ちょっと無理そうだしな」

円士郎はそう言って、部屋の中からこちらを見ている冬馬に、

「お前はそこで見届けてくれ」

と言った。


「はい」

冬馬は神妙な面持ちで頷いて──


どうして……?


私は愕然とした。


冬馬は、どうしてそんな風に落ち着いていられるの?

どうして、円士郎の死を受け入れられるの?


ここへ向かう途中の青文の言葉を思い出した。


冬馬だって──もともとは武士の出じゃないんでしょう?

私や青文さんと同じなんじゃないの……?


そう思ってから、

違うんだ、と思った。


幼い頃から、誰より身分にこだわり続けていた冬馬。

それはきっと、盗賊の子である彼自身の、
本当の武士になりたい、
本当の武士になろうという、
とてもとても強い思いの現れだったのだろう。


だから冬馬は武士として、

たった今、一人だけの兄だと言った円士郎の最期を受け入れ、見届けようとしている。



けれど……


私は──


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