恋口の切りかた
隼人が私のほうをチラッと見て、円士郎が優しい目を私に向けて眉を歪めた。


「そりゃ、まあ……彼女の剣の腕なら、可能だろうし──

彼女に斬られて死にたいとも思うけどよ……」



な……なにを……言ってるの……エン──



私は凍りついた。



エンの首を、私の手で切り落とすなんて──

そんな真似……私……


できるわけない──!



円士郎は首を振った。

「だが、彼女にはそんな役をやらせたくはない」

「わかるよ」と、隼人が呟いて、手にした小太刀を腰に納めて、一歩、円士郎に近づいた。


私は咄嗟に走り出て、円士郎を庇うように隼人の前に立ちふさがった。


「や……やだ……来ないで……」


隼人が細い目を少しだけ見開いて、円士郎と同じような優しい目で──困った顔をした。


やっぱり──同じだ。

同じ目だ。


私は震えながら、隼人を睨んだ。


隼人もまた、武士の誇りを守ることを優先していて、

円士郎の行動を受け入れる覚悟を固めていて──

止める気なんて全くないんだ……。


彼は肩をすくめて、

「まあ……介錯役なら、片腕の俺より適任が来た」

そんなことを言って、細い目は冬馬がいる屋敷の部屋の奥を見た。


「闇鴉の夜叉之助は──死んだのか」

言いながら、屋敷の奥から縁台に出てきたのは、神崎帯刀だった。
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