恋口の切りかた
「エン……」

うるんだ目が俺を映して、頼りなげな声が俺を呼ぶ。

震える指が俺の着物をきゅっと握った。


その動作の一つ一つが、
彼女の存在の全てが、いとおしい。



気がつけば、

周囲にいる他の者のことも忘れて、細い肩をかき抱いて、強く強く抱きしめていた。



「エン……エンが好き……」



俺の胸に頭を押しつけて、留玖がわななくように言って俺の背に手を回した。



冷たい地面の上に座ったまま、抱きしめ合って──



馬鹿だ……。



固めた決意が、粉々に砕けて崩れ落ちてゆくのを感じた。


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