恋口の切りかた
夜明け前なのか──辺りは藍色の薄闇に包まれていて、ぼんやりと周囲の物の輪郭が見えた。

私は涙に濡れた目を擦って、

「おい、留玖……俺がわかるか?」

私の隣で半身を起こして、心配そうに私の顔を覗き込んでくる人を見上げた。

「レンちゃん……」

私の口をついて出た名前を聞いて、その人は優しい目をしてクスッと笑った。


「おう、漣太郎だ。

今は──お前の夫の円士郎だけどな」


「おっと……?」


私は濡れた睫毛を動かして、何度も瞬いた。


「私は……──」


あれ?

ここはどこだっけ……?

私は何をしていたんだっけ……?
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