恋口の切りかた
りりい、りりい、と外で秋の虫が鳴いている。

街道沿いの宿場の一郭にある宿の、二階にある一室で、

私と円士郎は寄り添うようにして一つの布団に寝ていた。


「怖い夢、見たのか……?」


力強い腕で私をすっぽりと包み込んで、円士郎が優しい声で訊いた。


「うん」

私はぎゅっと彼の着物の胸元を握って、顔を埋めた。

「あなたが……どこかに行っちゃう夢を見た……」

「留玖──」

円士郎がそっと私の肩をつかんで、少しだけ体を離して、私の顔を見つめた。


「あの時は──ごめんな、留玖……」


切なそうに目元を歪めて、円士郎は謝った。


「もう俺はどこにも行かねえよ。ずっとお前のそばにいる」


その優しい声と、


「俺たちは夫婦になったんだから──」


私を強く抱きしめる腕の温もりに包まれて、


私は安心して目を閉じた。
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