恋口の切りかた
円士郎の手が、私の背中をそっとなでてくれる。


「留玖、つらくねえか?」

再び幸せな微睡みに落ちようとする私に、円士郎がいたわりの言葉をかけてくる。

「旅なんて、慣れねえだろ。
お前は国にいたほうが──」

「ううん」

私は彼の腕の中で、ふるふると首を横に振った。

「私は平気だよ。あなたのそばにいられるなら──何もつらいことなんかない」

「そっか……」

円士郎の手が私の髪をすいて、頭をなでてくれて、

「まだ早い。もう少し寝てていいぞ」

と、彼はやっぱり優しい声で言った。

「三日前、関所の前で宗助が追っ手の奴らを足止めしたから──今朝はゆっくりできる」

「うん……」


私は頷いて、

< 2,293 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop