恋口の切りかた
殿が、実の父親だという菊田水右衛門に連れられて、
藤岡仕置家老と一緒に、海野家の裏庭に現れて、
皆が平伏する中、
私の肩を抱いたまま円士郎は傲然と殿の前に立っていた。
私は気が気ではなくて──
「海野殿」と、家老の藤岡が後ろを振り返って声をかけた。
見ると彼らの後ろにはもう一人、白髪のひょろりと痩せた老人が控えていて、
「円士郎殿、こちらは海野喜左衛門殿じゃ」
藤岡家老は、帯刀が救出したと言っていた、海野家の前当主の御家老様の名前を口にした。
寝間着の上から羽織を着ただけの格好の老人は、
二つの死体が横たわり、赤い染みの広がった凄惨たる有様の裏庭に、よろよろと歩み出て、
地面に倒れている夜叉之助を見て、「おお」と顔を覆った。
「話は神崎より聞いた。
まさか清十郎が、盗賊の頭目であったとは……確かに言われてみれば、思い当たる節は多いが……この海野喜左衛門、気づかなんだ」
そう言って嗚咽を漏らす老人の話によると、
海野喜左衛門は、屋敷の離れにずっと押し込め状態で寝かされていたらしい。
けれど、特に手荒に扱われることもなく──病気にも手厚い看護が施されていたのだそうだ。