恋口の切りかた
「おっと、それは違いますな。
私は円士郎様を試したりなどしておりません」

と、覆面の下からは、こちらの考えなど全てお見通しのような声が上がる。


「私はあくまで、円士郎様を殿の後継とするために動いたまで」


やれやれ。

クセモノぞろいの連中を見回して、俺は軽く嘆息した。


それから俺は、殿様のそばの──左馬允の実の父親を見た。

「菊田のオッサン、あんたは……」

菊田水右衛門が顔を上げて、トロリとした眼差しをこちらに向けた。


「儂はな、城の庭で円士郎様にしたのと同じ問いを殿にも投げかけたことがある。

戦国の世では手に入ったが、今の世では決して手に入らぬものが何かわかるかとな」


左馬允が、「ああ」と思い出したように言って、

少し悲しそうな、
寂しそうな、
そして羨むような視線を俺に向けた。


「私は、我が父のその問いに──すぐさま、充足感だと答えた」
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