恋口の切りかた
その答えは──


「父が用意していた答えだ。
父の予想の範疇に納まりきる答えのみを、私は口にした」


俺は何とも言えない気分で、そう語る左馬允を見ていた。

左馬允は女のような顔で小さく笑った。


「その問いに──円士郎は『天下』と答えたのだそうだな」


ぶほっ、という音がして振り返ると、隼人と帯刀が顔を伏せたままむせ返っていた。


その話をここでするのかよ!


左馬允は

少し可笑しそうに、
眩しそうに、

目を細めた。


「私の答えと違って、円士郎のその答えは父を楽しませたようだ」

「俺は菊田のオッサンを楽しませようとしてそう答えたんじゃねー」


鼻白む俺を見て、左馬允は「あはは」と屈託なく肩を揺らして笑った。


「円士郎様のその答えを聞いた時に、儂の腹は決まった」

と、菊田水右衛門は言った。


「税を吊り上げた時に、円士郎様は藤岡殿にどうすべきだったか問われて、面白くも何ともない模範解答をしたようだが──

その後で、自ら百姓の蜂起を止めて見せ、

謀反の疑いをかけられてはあろうことか行方を眩ませ、殿の危機に駆けつけてこの国を救おうとした。

いや、儂の予想を大きく逸脱した行動であったわ」


褒められているのか、けなされているのかさっぱりわからない言葉だった。
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