恋口の切りかた
「十一年前の我らがした選択は、やはり間違っておらなんだようだ。

のう、伊羽殿」


と、菊田は奥の見えない目に青文を映して、

奥どころか目自体が見えない覆面の御家老が「そうですな」と頷いた。


どういう意味だ……?


青文が覆面に隠れた目で、
首を捻る俺と、俺の腕の中の留玖とを見て──



「我らは十一年前、
正しく優しい心で国を治め、家臣に慕われる優れた主君を擁立し、

そして──」



見えない彼の顔が微笑みを浮かべたような気がした。



「暴君になっていたかもしれぬ少年には、

彼にとって必要な人間と出会い、変化し、成長する十一年の時間を与えたのですから」


< 2,323 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop