恋口の切りかた
「殿」と菊田が左馬允に声をかけた。


「儂はずっと──我が子である殿に望まぬ大役を押しつけ、つらい思いをさせているのではないかと心を痛めておったが──

それでもあなたは儂や他の者の期待に応え、立派に主君としての責務を全うしておりました。

優れた主君です」


菊田の声は淡々としていたが、

左馬允が大きく目を見開いてから微笑んで、「父上」と声を震わせて頭を下げた。



それから、左馬允はくすくすと笑いを漏らしながら俺と留玖を眺めた。


「そんなわけだから円士郎、心配しなくてももう誰もお前から留玖を奪ったりはしないよ」


「へ?」


俺はぽかんとなって、

青文がクッと覆面の下で吹き出し、

藤岡と菊田がにやついて、

海野喜左衛門がゴホゴホと咳払いをした。
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