恋口の切りかた
海野喜左衛門に派手に壊しまくった屋敷のことを詫びて、

屋敷を後にしようとして──


「おいこら、俺たちは賊の一味じゃねえよ! 放しな!」

「無礼者! ボクは武家の人間だ! 盗賊と一緒にするな!」


ギャーギャー騒ぐ声が聞こえてきて、見ると屋敷の門のところで、与一と鬼之介が盗賊改めの俺の部下たちに引っ立てられようとしていた。


鬼之介の傍らには、鬼之介のマントにしっかとしがみついて

「その御方は違いまするぅ──」

などと血の凍る叫びを上げながら、一緒にずるずる引きずられていく怨霊のような女の姿もあった。


……しまった。

あいつらのことを忘れてた……。


「おい! そいつらは我らの助太刀をしてくれた味方だ!」

帯刀が、慌てて下役たちに駆け寄りながら怒鳴って、


「おう。霊子の救出にも成功した様子で、何よりだな」


俺はそう言って、解放された鬼之介の肩を叩いた。


宗助とは違って、幽霊女は特に拷問を受けた様子もなく、無事のようだった。


話によると、霊子は蔵の一つの中に閉じこめられていたようで、がりがりと蔵の壁を爪でかきむしっていたところを鬼之介が助け出したらしい。


その爪の跡、この屋敷の蔵に残ってんのかよ……。


相変わらず、怪奇現象のような女である。
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