恋口の切りかた
私は寂しくて、寂しくて、


彼はもう、私のことなんて忘れてしまったのかな、と思った。


円士郎はあの日、人目もはばからずに私の肩を抱いて、一生こうしていると言ってくれて、

私は青文や隼人たちの見ている前でそんなことを言われて、恥ずかしくてどうにかなりそうだったけれど、


それ以上に、嬉しくてどうにかなってしまいそうだった。


でも、円士郎はそう言ってくれたけれど──

冷静に考えてみると、私は絶望的な気分になった。


だって、円士郎はお殿様になったのだ。

結城家にいた時でさえ、円士郎には風佳がいて、私には手の届かない存在だった。

増して一国の殿様になった今、
彼はきっと、他家の綺麗なお姫様をお嫁さんにするに違いない。


お城はいつでも仰げば見える場所にあるけれど、

円士郎といつまで待っても会えない今の状況が、お城までの道のりよりも遙かに遠く開いた私と彼との距離を物語っている気がした。


エンは、本当に私には手の届かないところに行っちゃったんだ……。


私はそう思って、


エンが生きていてくれるなら、私はそれだけでいい。


そんな風に、何度も心の中で繰り返して、彼のことを忘れようとして、


それでも、



彼がくれた言葉と温もりとが、諦めさせてくれなかった。
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