恋口の切りかた
「私には、武家のしきたりがよくわかりません」


夕食の前に交わしていた会話と

いつか漣太郎と交わした会話とを思い出して、


私は言った。


「お嫁に行くというのは、好きな人同士で一緒に暮らすためのものだと思っていました」



村にいたころ──母親から、いつも聞かされて育った。

大きくなったら、一番好きな人のところにお嫁に行きなさい。
それが幸せなことなのだからと。



でも、漣太郎は違うと言った。

武家の婚儀はそういうものではないと。





だから──漣太郎は風佳と……。





私は膝の上でぎゅっと手をにぎる。


……いやだよ。

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