恋口の切りかた
円士郎が、屋敷まで送って行くと言ってくれて、


二人で手を繋いで、夜の川縁を歩いて、


城下にさしかかった帰り道、桜の木々の間にいくつも篝火が見えた。



日が暮れても、土手は夜桜を楽しむ花見客で賑わっていて、

花の下で焚かれた篝火の炎に煽られて、桜の花びらが吹雪のように降り注いでいた。

「へえ」と二人で土手の上の道を歩きながら、円士郎が楽しそうな声を出した。

「城に帰ったら俺も、城の庭の夜桜で花見酒とでもしゃれ込むかな」


私はお酒は苦手だからなあ、とそんなことを思いつつ歩いていたら、


「よう、兄ちゃん。いい女連れて歩いてんじゃねえかイ」

あれ?

なんだか昼間も聞いたような声が耳に飛び込んできて、

「おう、お嬢ちゃん。そんな男ァ放っといて、俺たちのほうに来て酌しねェか酌!」

ぐでぐでに酔っぱらった昼間と同じ銀治郎の子分たちが、私と円士郎を囲んだ。

「ほら、こっち来なァ」

言うなり、酒臭い息を吐き出して男が私の手をぐいっと引いて──

私が、またねじり上げようかな、と思った瞬間、


円士郎の下駄が、その子分の顔面にめり込んでいた。
< 2,396 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop