恋口の切りかた
「今もさることながら、出会ったころの晴蔵様はそれはそれは若くていい男ぶりの御武家様での」


うっとりした口調でりつ様が言うのを聞いて、

ああ、りつ様は本当に結城晴蔵という人が好きなんだなぁ、と思った。


「わっちは──馬鹿なことに、まだ
自分は武家の娘であると、他の者とは違うのじゃと
こだわっておったのか──

晴蔵様と出会ったころは、御武家様と話ができるだけで喜んでいたものじゃが、

吉原では皆、地方の野暮(やぼ)な侍の相手などいやがっていんした」


しかし結城晴蔵の颯爽(さっそう)とした若武者ぶり、男ぶりに、
そんな遊女たちさえもさわいでいたのだという。


「本当の名前を教えてくれと晴蔵様に言われて、十何年ぶりに『六花』という名で呼ばれた時──わっちは本当にうれしくて幸せじゃった」


だから、とりつ様は続けた。


「わっちは幸せ者でありんす。本気で好いたお人に身請けされて、こうしておそばに置いていただけて、これ以上の望みはぜいたくというものじゃ」


心の底から満ち足りた、それでいて悲しげな、

そんな表情だった。

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