恋口の切りかた
二人で桜を見た日からたったの十日後、円士郎が江戸へと発つ前に、


私はちゃんと白無垢の花嫁装束を着て、

孤児の私を育ててくれた父上と母上にお礼を言って、


円士郎の待つお城へと、輿入れの形で入った。



母上は花嫁装束に身を包んだ私の姿を見て、涙を流して喜んで、

「円士郎殿に幸せにしてもらいなさい」

と、泣きながら言ってくれた。


これまでは、

「本当に留玖は、円士郎殿に騙されているのではないのですか?」

「側室という立場で、幸せになれますか?」

と、私のことを心配してくれていて、

お殿様になっても、やっぱり円士郎は酷い言われようだったけれど、


円士郎が側室の私のために、祝言を上げることにしたと知って、

彼が私のことを本当に大切に思ってくれているということを知って、


母上もやっと安心した様子だった。


「お優しい父上と母上の子となれて、留玖は本当に幸せでした」

私はそう言って頭を下げて、


「儂も奈津も、留玖を養子とできたこと、何よりの幸いであった」

と、父上が言ってくれた。
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