恋口の切りかた
宴がお開きになって、


私はいつかの夜のように、奥女中の人たちに身支度を整えられて、

奥御殿の寝所で円士郎を待った。


女中の人に案内されてここで待つようにと告げられた場所は、以前とは違う部屋で、桜の木が植えられた庭に面していて、

枕元には桜の花が生けてあって、

寝所の中には大好きな花の香りが甘く漂っていた。


私のために円士郎が用意してくれたんだとすぐにわかって、

私は胸がいっぱいになった。


「もう散りかけだけどな」


私が生けられた桜の花に手を伸ばそうとしたら、部屋の中に声がして、

振り返ると、白い寝間着姿の円士郎が立っていた。


「そろそろ今年の桜の花も終わりだ」


そう言いながら、円士郎は私が座っている床(とこ)のそばまで歩いてきて、

私と向かい合って座った。


私は久しぶりに円士郎のこんな姿を目にして、心臓が一気に跳ね上がってしまった。


どうしよう、どうしよう、

えっと、初夜の時はどうするんだっけ……


今頃になってお酒が効いてきたみたいに、ぐるぐるし始めた頭を床の上に伏せて、


「ふ、ふつつか者ですが──」


私がそう言ったら、円士郎が吹き出した。
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