恋口の切りかた
「今さら何言ってんだよ、留玖」


円士郎は腹を抱えてゲラゲラ笑い転げて、


笑われた……!

せっかくの初夜なのに、エンに笑われちゃったよう……!


私は泣きそうになった。

前に奥に入った時とは違って、今度は恥ずかしくて頭を上げることができなくて、また顔を伏せたままでいたら、


「お前ってさあ、俺が知らねえうちに凄くいい女になったと思ったら──こういうとこは、やっぱり留玖だよなァ」

円士郎はそんなことを言って、クックッとさもおかしそうに笑って、

「かわいい、かわいい」

と私の頭をなでた。

私は半ベソになってしまった。


「ふええ、どうせ私なんか、エンから見たら子供だもん……」


恨めしい思いで円士郎を顔を上げて円士郎を見上げたら、

円士郎はもう笑い転げていなくて、
私が思っても見なかった優しい瞳で、目を細めて私を見つめていて、

私の胸はまたどきんと大きく鳴った。


「子供じゃねェよ」


円士郎は私の頬に手を当てて、そう言って、


「お前、凄ェ綺麗になったよ。色っぽくなった」


川縁の桜の下で私に向けていたような、どこか陶然としたような目になって、


「エ……」


彼の名を呼ぼうとした私の口を彼の唇が塞いだ。
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