恋口の切りかた
「留玖殿は武家のしきたりと言いんしたが、
本気でほれた相手と添(そ)い遂(と)げることなど武家でなくともむずかしい世の中じゃ。

昼間、逃げたという罪人も──」


突然、罪人の話が出てきて、私はどきりとした。

ゆるんでいた気持ちをあわてて引きしめ直した。


「──町の大きな商家の娘と、そこの下働きの男が駆け落ちしようとして、

男が追っ手を二人も刺し殺して逃げたのだそうじゃ」




悲しいの、とりつ様はつぶやいた。
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