恋口の切りかた
~君と剣を合わせて~
【円】
雨の音で、俺は目を覚ました。
刻限は、夜明けを少し過ぎた頃だろうか。
江戸を発ってから半年、
諸国を歩き回り──ようやく国も近づいた街道沿いの旅籠の一室である。
俺の腕の中ですうすう寝息を立てている、愛しい女の姿を確認して、ホッとする。
今度は怖い夢を見ていないようだ。
そっとその頬を撫でて、
不意に、障子戸の外に人の気配を感じた。
この部屋は宿の二階だ。
障子戸の向こうは屋根の上。
こんな場所に潜んでいるのは──
「宗助か?」
半身を起こして俺が声をかけると、「は」という短い返答が返ってきた。
「どうした?」
「この雨で、追っ手は難儀しているようだ。
一日はここに留まっても追いつかれはしない」
「そうか、だったら今日は留玖と二人でゆっくり過ごすかな」
俺はそう呟いて、
窓の外から、俺が殿様になっても変わらず仕えてくれている忍の男の気配が消えた。