恋口の切りかた
年が明けて、留玖を側室にしてからすぐ、

参勤交代で留玖を連れて江戸に入り、俺はお上に目通りして、

一年を留玖と共に江戸屋敷で過ごした。


その間、留玖と一緒に江戸の名のある剣術道場を訪ねて回り、

将軍家の剣術指南役である柳生家の人間とも手合わせなどを重ねて、親しく言葉を交わすようになり──

いつか柳生の庄にも参られた時には歓迎しようと言われたのをきっかけに、俺はある計画を企てた。


一年が過ぎて、再び江戸から国元へと帰る途中、

俺は青文には書状でもうしばらく国を頼むと伝えて、
家来には空の籠を担いで国まで帰るようにと命じ、
留玖と一緒に行方を眩ませて、

俺たち二人は、諸国の名のある剣豪や道場を訪ね歩く、武者修行の旅に出たのだった。


女の身にはつらい旅になると思った俺は、

留玖は大名行列でそのまま国に戻るようにと告げたのだが、

彼女は俺と一緒ならどんな旅でもつらくない、一緒にいたいと言い張って──


惚れた女にそう言われてしまうと、俺もいいから帰れとは言えなかった。


そうして、国元との伝令役も兼ねて宗助だけを連れて、

俺と留玖は半年間、ほとんど二人きりであちこちを旅して共に武芸の鍛錬を積んだ。


生まれてから一度も、村と城下町以外の土地に行ったことがないという留玖は、江戸でも俺との旅でも大はしゃぎして、楽しそうで、

そんな留玖のかわいい姿を見て、俺は一人でにやけていた。
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