恋口の切りかた
「兄上、姉上、どちらも悔いの残らぬよう、頑張って下さい」

集まった鏡神流の門下生の中から歩み出て、冬馬は私と円士郎に微笑んだ。

「私にはとうとう手が届きませんでした」

冬馬はそう言って、少しだけ残念そうな顔を見せた。

「まあ、お前は──実の兄に似て、武芸よりもこっちの才能のほうがあるみてえだからな」

円士郎はこつこつと指で頭を叩きながらそう言って、

「家老見習いの役目、青文にようく鍛えてもらえよ」

と笑った。

「彼はなかなか優秀ですよ」と、試合の見物に来ていた覆面御家老が歩み寄ってきて言った。

今日は姿が見えないけれど、青文に連れられて亜鳥も時々城に来ていて、
私と話したり、円士郎とやっぱり気味の悪い絵を広げて絵や学問の話をしたりしている。

「誰かさんと違って弟君は真面目ですしね」

覆面の下で、青文はギロリと円士郎を睨みつけているような気配を漂わせて、

「期待していますよ、海野殿」

冬馬に向かってそう言った。

「は」と頭を下げる冬馬は、中かげ桐車の家紋の入った裃をまとっていた。
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