恋口の切りかた
「りつ様」

私は口を開いた。


そろそろと、横に置いた刀に手をのばしてにぎった。


「その、襖の奥は……」

「ああ、奥にもう一間」

りつ様は表情を変えず、なにげない調子で答える。


吉原では、好いたフリ、ほれたフリをする──ということは、

最上の格の遊女ともなれば、



『誰もいないフリ』も──うまいのだろうか。



「においが……」

ゆっくりと私は片膝を立てる。


「におい?」


始めにここに来た時との違いは、
違和感の正体は──


「白粉のにおいとは違う、別のにおいがするんです」

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