恋口の切りかた
「だッ、黙れ! 動くなッ」


りつ様に向かってそうどなる若者の目は、完全に正気を失っている。

私はあせった。
このままじゃ、りつ様が──。


いやだ。


りつ様は、つらい思いをたくさんされて、

結城家でも一人でさびしい思いをして、

なのに、幸せだと微笑んで──


いやだ……!

そんな人を、これ以上ひどい目にあわせたくない!





考えろ考えろ考えろ!

頭の中で自分に向かってさけんだ。

どうすれば助けられる!?





ふっ、と。

まるで宙をはう線のように、道すじが見えた。






私は鯉口を切ったまま刀の柄に手をかけ、相手に一歩近寄った。



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