恋口の切りかた
七、器量と才能
【漣】
庭からさしこむ青白い月明かりの中、
血しぶきをまき散らして、堀口がドタンと畳の上に転がった。
留玖が見せたのは、昼間俺の試し斬りを止めたときの抜刀術だ。
刀を鞘走りさせて、抜刀の一挙動で相手に斬りつける。
せまい室内、至近距離から放たれたこの攻撃が、いかに防ぎづらいものか──俺は知った。
斬りかかる前に、留玖が長い刀を鞘から抜いていれば、相手も懐刀で受け止めるかよけるかできただろう。
剣術の経験は向こうの方が上だし、動きが丸わかりだ。
しかし留玖は直前まで抜かなかった。
これでは太刀筋の予測がつかないし、しかも一挙動で攻撃につなげられては目で見て体を動かし対処する時間が限られる。
しかも懐刀は刀ほどの長さがないエモノだ。
刀を受け止めるなら、確実に相手の太刀筋を読んで、刀が当たる位置に刃を持ってこなければならない。
目の前の相手だけに集中しなければ対処できない攻撃だ。
──が、堀口はりつ殿を人質にしていた。
人質をとるということは、意識の何割かを人質のほうに向けなければならないということだ。
距離をつめたあとは二挙動で、
体を沈みこませるように横手に回り、子供の低い身長で間近から抜刀術で斬り上げる。
これは、眼前の状況すべてを生かしきった、最善の方法だった。