恋口の切りかた
結局、俺が堀口を斬ってでも防ごうとしたにも関わらず、伊羽邸には火急の報(しら)せが行き──

「なにごとだ!?」

屋敷にもどってきた親父殿は、離れの凄惨(せいさん)極まる現場を目にして目を剥(む)いた。



離れの中では、一報を聞いて町からいち早く駆けつけた虹庵が、りつ殿の手当をしているところだった。


留玖に斬られた堀口のほうは、虹庵が駆けつけた時にはすでにこときれていたようで、

脈をとった虹庵はすぐに首を横に振って、仰向けに倒れたまま目を見開いている若者に羽織をかぶせた。


留玖は堀口を斬った刀をその横の畳の上に置いて、あれからずっと自分が斬った死体の横に座りこんで、

俺やりつ殿に時々、おびえたような視線を投げていた。


親父殿は、畳の上に突っ立っている俺に一瞥をくれた後、
そんな留玖をながめてから堀口の死体のわきにかがみこみ、

かけられた羽織をめくって──

死体の顔を確認したとたん、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべた。



「この男は──!」



「親父……」

どう説明すればいいのかと思いながら口を開きかけた俺は、

親父の後に続いて離れに入ってきた者に気づいて、言葉をとぎれさせた。


「見知った顔ですかな?」


離れの入り口付近に立ったまま、くぐもった声でそう言ったのは──

異様な風体(ふうてい)の男だった。
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