恋口の切りかた
ハデで豪華な錦糸の着物に袴は、まあいいとして──

異様なのはその首から上だ。



男は、目もと以外の顔面すべてを

長く布を垂らした覆面頭巾(ふくめんずきん)で覆っているのである。



これではどんな顔をしているのか──どころか年齢すらわからない。



言葉を失って覆面頭巾を見つめる俺に気づいて、親父殿が立ち上がった。


「漣太郎、こちらは城代家老の伊羽殿だ」



伊羽──こいつが……!?



「伊羽殿、我が嫡男の漣太郎だ」


俺を紹介する親父殿の横で、俺はがく然とする。



結局、俺が危惧(きぐ)したとおりに、家老は親父殿についてここにやって来てしまったのだ──。



得体の知れない覆面家老は、俺を見て軽くうなずいて、

すぐに、その後ろにある死体に目を移した。


「ほう? 結城殿、こやつの顔は──私も見覚えがありますな」

やはりくぐもった低い声で、伊羽はボソボソとそう言った。


「それも今日の夕刻だ」

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