恋口の切りかた
場の空気がかたまった。

りぃ、りぃ、りぃ……虫の声だけがしばし聞こえ──



「親父ィィイイイ──!?」



漣太郎が立ち上がって、絶叫(ぜっきょう)した。

まあ、絶叫と言ってもささやき声だったけど。



「あんたら裏で、ンなことやってたのかよっ!?」



うーん。

あの覆面の御家老様も、私に向かって「子息が下手人なんて問題だ」とか言っておきながら、


子息どころか、当主本人が下手人やっちゃってるの知ってたんじゃないか……。


自分たちはしれっと、当主同士でこんな陰謀(いんぼう)を実行に移していたとは。


父上は鼻を鳴らし、

「フフン、伊羽家に知らせをやらぬなどとよけいな気を回しおって。

ガキんちょごときが、この親父様の心配など百年早いわ」


「うぐっ……」


なんだか打ちひしがれる漣太郎の前で、父上はげらげらとおかしそうに笑った。

「しかし、まさか堀口がこの屋敷に逃げ込んで、しかもお前らに殺されるとは──

さすがの儂や伊羽殿も想像してなかった。

いや~驚いた驚いた!」
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