恋口の切りかた
それに関しては、
昼間逃げた罪人を斬れと、たまたま刀を渡していた自分の失敗だと、そう父上は言った。


「そもそも堀口たちが今宵決行にふみきったのも、件(くだん)の逃げた罪人が夕刻、商家の界隈(かいわい)でお縄になる騒動があったからだろう。

今宵は特にそちらに世間の注意が集中していた。
武家屋敷の辺りで事件を起こすなら今と思ったのだろうな。

時を同じくして、堀口たちが動いたと伊羽殿から連絡があった」



父上は、伊羽様の身を案じて伊羽邸を訪ねていた、という証言を伊羽様からしてもらい、

被害者側の証言という鉄壁の不在証明を得て、


首謀者の屋敷に集まっていた本当の標的たちを、帰り道に闇討ちにした──。




ちなみに、伊羽様と一緒にいて堀口青年に斬られた二人というのは、

首謀者たちの仲間ではなかったようだが──やはり城内の汚職にからんでいた者たちで、


今日にそなえて、伊羽様が最近は常に連れて歩いていたのだとか。
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