恋口の切りかた
父上はりつ様の首に巻かれた痛々しい布を見て、溜息をついた。

「心細かっただろう。留守中にこんな目にあわせて──すまんな」

優しいいたわりの言葉を聞いたりつ様はうれしそうに、漣太郎殿と留玖殿がいたから平気だったと言って微笑んだ。


父上はうなずいて、

「漣太郎、留玖、りつを守ってくれたこと──あらためて礼を言うぞ」

と、私と漣太郎に言った。


私はちょっと照れて、
でもうれしくて、
「はい」とうなずいたのだけれど、


「……オレは何もできてねーよ。結局、堀口を斬ったのも留玖だ」

漣太郎は不機嫌そうにそっぽを向いた。


「んー? なにをふてくされてるんだお前は」

「べつに。ただ、オレはあの場にいてもいなくても一緒だったと思っただけだ。……オレに留玖のような才能はない」


父上は目を丸くした。


私は、突然こんな事を言いだした漣太郎に衝撃を受けて──

落ち込んだようにうつむいた漣太郎の横顔を見て、胸が苦しくなった。


そんなこと……ない! と思う。

違うよ、レンちゃん。

漣太郎があの場に来てくれた時、私はホッとしたし、心強かった。
大人とも対等に渡り合えている漣太郎を見て、たよりになるなぁって思ったのに。
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