恋口の切りかた
「親父だってそう思ってるんだろ? いずれオレは、留玖に勝てなくなる……」


私はぎゅっと手をにぎりしめる。


私のせい?

私を見て、漣太郎が自信を失ってるの?


──やだよ、こんなの。

漣太郎はいつも、
強気で
不敵そうで……

……そうじゃないと、いやだ。


父上はポカンとした顔で漣太郎をながめていたけれど、やがてゲラゲラとおかしそうに笑い始めた。

ほほう、とめずらしいものでも見るように目を細めて、

「不遜(ふそん)なお前が己を省みることができたのなら、上々だ! 留玖を養子にしたかいもあったというものだな」

「んだよ……!」

「ふふん。だがイマイチお前もズレとるな。いっちょうまえに自信喪失か?」


父上はここで笑うのをやめ、漣太郎、と真面目な顔で言った。


「儂は今回のお前の対応、りつ殿のいさめもあったとは言え、結城家の次期当主としてそうマズいものではなかったと思っているぞ」

父上は、黙ったままの漣太郎の顔をのぞきこんだ。

「漣太郎、結城家の当主として、必要なものは何だと思う?」

「……剣の腕だろ。結城家は剣術指南を務める武芸の家だ」

私は、そうか──と思った。

漣太郎が強さにこだわる理由。
平司のように武士の身分ではなく、剣の強さにこだわるのは──
だからなんだ。

「剣の才か。まあそれは当然だな。だが、それだけでは足りん」

父上はそんな風に言った。

「当主にとって必要なもの──それは当主たる器だ」

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