恋口の切りかた
「家督はお前に継がせる。今宵の働きは儂にそう思わせるに値するものだった……が、道場はまた別だ。

漣太郎、お前、結城晴蔵の名を継ぎたがっていたな」


父上はにやっと笑って、


「師範に求められるのは器量よりも、間違いなく剣の才能。

代々鏡神流に受け継がれてきたこの『晴蔵』の名を継ぎたければ──留玖に勝ってみせることだ。

お前には悪いが……今のところ、お前の自己評価どおり、平司やお前と比べても『晴蔵』の名に最もふさわしい子供は留玖と言わざるを得ん。

『晴蔵』は最も剣の才に秀でた者に継がせる。たとえ、それが女であってもだ」


私はまた驚愕(きょうがく)して──

漣太郎はさらに大きく目を見開いていた。


でも彼のその横顔は、さっきまでのような自信を失った顔ではなくなっているように見えた。


「まあ、そんなわけだから二人とも! いっそう稽古にはげめよ」


こともなげに笑ってそう言う父上を見て、私はあらためて──かなわないなあ、と思う。


これが器量の大きさ、と言うものなんだろうか。

今、父上の横で、微笑みながらこの結城晴蔵を見つめているりつ様が
本気で好きになるのもわかるような──

そんな懐の広さや深さを感じた。
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