恋口の切りかた
「ああ、そうそう漣太郎。お前も伊羽殿とは仲良くしておけ」

父上は思い出したようにつけくわえた。
漣太郎はいやそうな顔になる。

「うげぇ……あの覆面頭巾とかよ」

「伊羽殿はまた、儂やお前にはない才をお持ちだ。謀(はかりごと)の才というものだな」

「オレ、ああいうやつはちょっと苦手なんだよなァ」


私も──

あのぶきみな御家老様を思い出した。

あの人はちょっと怖い感じがして、苦手だと思った。


「苦手であればこそだ。伊羽殿は齢も、儂よりはお前らに近いしな」


「……──はァ!?」


漣太郎が頓狂(とんきょう)な声を出して、
私はぽかんとなる。


「まァあの覆面では齢(よわい)も何もわからんだろうが──伊羽殿はな、今年でまだ二十だ」


漣太郎があんぐりと口を開けた。


二十!?

それは──ぜんぜんわからなかった。

私はもっとずっと……父上と同じかそれよりも年上かと考えていた。


確かに、言われてみるとあの覆面家老様は父上に対して終始敬語だった。
あれは伊羽家と結城家の格の差ということではなく、単純に父上のほうが年上だから、なのかもしれない。


「オレ、自分があと七年であんな風になれるとはぜんぜん思えねーぞ」

漣太郎がつぶやいた。

私も、あの得体の知れない化け物のようなぶきみさと奥の読めなさが、はたして齢二十という若さで身につくものなのだろうかとぼう然とした。
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