恋口の切りかた
『城代家老の伊羽様をはじめ、城内の重臣六人が一夜で襲われた』

『下手人は馬廻役(うままわりやく)堀口新右衛門の嫡男、文七郎』


この話はあっという間に城下町中に広まり──


そして

堀口をあやつって要人の闇討ちを画策した、黒幕として名が上がったのは、


なんと仕置家老の雨宮様という方だった。





真相を知らない世間での表向きの話によると、



夕刻、伊羽様は城の重役二人と道を歩いているところを、突然堀口に襲われ──
一緒にいた二人は斬り殺され、腕に覚えのあった伊羽様一人がからくも助かった。


伊羽様が顔を見ていたために、下手人はすぐさま堀口と判明したが、堀口はその場から逃走し、

さらに、残りの三人を次々と夜道で闇討ちにして斬り殺した。


結局、命が助かったのは家老の伊羽様一人で、五人は斬り殺されて絶命。



その後、堀口は発見されて伊羽邸で簡単な詮議を受け、夜も遅いということで、追って正式な沙汰(さた)があるまではと、閉門蟄居(*へいもんちっきょ)を言い渡されて帰された。

──が、
屋敷には帰宅しておらず、

今朝がた、城下町近くの河原を『たまたま』通りかかった『結城晴蔵』が、切腹した堀口青年の遺体を発見した。



(*閉門蟄居:自宅謹慎のこと)
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