恋口の切りかた
夢や幻ではなかったようで、

私が庭に回って待っていると、ほどなく天秤棒をかついだ若者がやってきた。


ドッコイショ、と私の前に桶を降ろして並べる若者に、
やっぱり私はぼうっと見とれてしまった。


「ほら、どうですか? かわいいでしょう」

「ほんとだ……」

言われて桶をのぞきこみながらも、
私は赤い魚よりも、桶のかたわらにしゃがみこんでいる金髪の青年のほうが気になってしかたがない。


明るい午後の日差しで、金色の髪の毛がキラキラと輝いている。

緑色の瞳は本当に翠玉をはめこんだようで、どこか妖しい光を放っていて


この世の者とは思えない不思議な姿だった。


ふと

庭の片すみにある小さなお稲荷様の社(やしろ)が目に入った。


色も白くて、鼻筋も通っていて──

太陽の光が降り注ぐ昼日中だけれど、やっぱりこの人、狐が化けてるんじゃないのかな。


きっとそうだ。

お稲荷様が人の姿に化けていて、だからこんな髪の毛や瞳の色なんだ。



そんなことを考えていたら、「留玖」と背中から声をかけられた。
< 313 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop