恋口の切りかた
  
 【円】

俺は元服して名を改めた。


親父殿からもらった諱(いみな)を「直秋」。

字(あざな)を「円士郎」という。


漣太郎だったころには、あれほど

「早く大人になりたい」
「早く元服したい」

と思ったものだが……


十七になったこの正月十一日に元服してから半年。

いざ元服してみると、
それほど何かが劇的に変化したということもなく──


俺はなにか物足りないような気分を抱えながら、日々を過ごしていた。



この日も、屋敷の廊下を歩いていると、庭にいる留玖の姿が目に入った。


留玖は、被り手ぬぐいの物売りの男と何事か話している。

む……。

男のほうはかげになってよく見えないが、留玖が何だかうっとりした顔でその物売りを見つめているので、俺はカチンときた。



そう、変わったことと言えば俺より留玖だ。



十六になった留玖は──


──ハッキリ言って、めちゃくちゃ可愛くなっていた。

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