恋口の切りかた
見て見ぬフリをしていた黒いものに気づかされた心持ちがして、俺は苦笑した。


「ぜひとも斬りたい。斬ってみたい」

「ほう?」

「──なんて言ったら、なんかもう人間失格って感じだろうが。阿呆か」


焦りや劣等感とは別の問題もある。

屋敷に逃げ込んでいた罪人を斬ろうと息巻いていた時と
今とで、
決定的に違うことが一つあった。

死にたくないと言った堀口が留玖に斬られ、絶命するところを
俺は目の当たりにした。


あの日俺は──人を『斬る』ということが人を『殺す』ということだと、ハッキリと認識してしまったのだ。


その上で、「斬りたい!」なんて即答したら……
武士とか侍以前に、そりゃそもそも人として色々終わってるだろそいつは。


なんてことを考えつつも──俺は……



「心配ご無用。世の中にはね、斬られて一度くらい死んだほうがいい人間もたくさんいるんです」

遊水はなかなか物騒なことを言う。
一度くらいって、一度死ねば人間は終わりだ。
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